地平のすべてを恐怖させた魔王が打ち倒され、 破滅に怯える必要がなくなった時代。 未来に夢を見ることができるようになった今、 少女は理不尽な暴力の渦中にいた。 素晴らしかった景色はもはやなく、都市も、草花も、 全てが燃えている。 生きながら解体されていく親友の 苦悶の断末魔を聞きながら、少女は逃げ出した。 親しい誰かが死にゆくとき、自分が無力でいること 以上の絶望があるだろうか。 しかし、少女の前にふらりと現れた一人の剣士が、 絶望を、抗うことのできなかった理不尽を、 たった一振りのなまくらで、いともたやすく斬り伏せ てしまった。 「――柳生宗次朗。このオレが、地球最後の柳生だ」 この世界には、あらゆる“力”の頂点を極め、 「最強」の名を戴く者たちがいる。 剣士もまた地平に蠢く無数の、“修羅”の一人。 魔王亡きこの世界で、なおも闘争を求める、 その一人目に過ぎない。 ――そうか、私はこの男が、“強者”が許せないんだ。 幾度も命を救われたにも関わらず、少女に芽生えた 見当違いな感情。 しかし、すべてを失った少女には 自分自身を支えていく理由が必要だった。 ――この男を殺す。この世界には、それができる“強者”がいる。 理不尽な“強者”たちへの憎悪を支えに、 少女は剣士と共に歩き出す。 「最強」を殺す旅路は、そうして始まりを告げた。